最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)673号 判決 1972年2月22日
主文
原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は、被上告人の負担とする。
理由
上告代理人岩本義夫の上告理由について。
原審の確定した事実は、次のとおりである。訴外青木由郎は、上告人に対して本件約束手形、すなわち、額面金二五万円、満期昭和四二年一月二〇日、支払地宇都宮市、支払場所宇都宮信用金庫材木町支店、振出日昭和四一年一〇月一二日、振出地宇都宮市、振出人青木由郎なる約束手形一通を振り出した。上告人は、昭和四一年一〇月一六日右約束手形を支払拒絶証書作成義務を免除して被上告人に裏書譲渡した。被上告人は、右約束手形を支払拒絶証書作成義務免除のうえ、訴外株式会社足利銀行に裏書譲渡した。右足利銀行は、昭和四二年七月八日右約束手形を支払場所に呈示して支払を求めたが、支払を拒絶された。そこで、被上告人は、右足利銀行からその頃右約束手形を買い戻して再び所持人となつた。
原審は、右の事実を確定したうえ、上告人は被上告人に対して本件約束手形金二五万円およびこれに対する本件支払命令が上告人に送達された日の翌日である昭和四二年七月一九日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払う義務があるとして、その支払を求める被上告人の本訴請求を認容した。
しかしながら、原審の確定した右事実関係のもとにおいては、本件約束手形は、法定の呈示期間内に呈示されなかつたのであるから、右呈示期間の徒過によつて裏書人たる上告人の遡求義務は消滅し、被上告人は、右手形を受け戻しても上告人に遡求しえないわけである。しかるに、上告人に対する遡求権の行使を認めた原判決(その引用にかかる第一審判決を含む。)は、手形法七七条、五三条の解釈を誤るものであり、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の確定するところによれば、上告人の遡求義務が消滅したものと解すべきことは前掲説示のとおりであるから、その義務の履行を求める被上告人の本訴請求は理由のないものとして棄却すべきである。
よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 田中二郎 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝)